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大坂なおみ選手の「ごめんなさい」は本当に誤訳なのか? [翻訳・誤訳]

テニスの全米オープン決勝について前々回取り上げたが、勝った大坂なおみ選手が表彰式で「こんな結果になってごめんなさい」と言ったと報じられていることについて、「謝罪はしておらず、誤訳だ」という指摘が出ている。本当にそうだろうか。

セリーナ・ウィリアムズ選手の meltdown で騒然となった試合だったが、表彰式では彼女もブーイングを続ける観客を "No more booing." とたしなめて大坂選手をたたえるなど、スポーツマン(ウーマン)シップを見せてくれたのが多少とも救いだった。

そして、式で大坂なおみ選手が発した言葉の中にあったのが、

- "I know everyone was cheering for her and I'm sorry it had to end like this."

である。

これを冒頭のように、あるいは「勝ってしまってごめんなさい」のように訳して報じたメディアがあったが、「この "I'm sorry..." は謝罪ではなく、”残念です”の意味に取るべきで、”ごめんなさい”とするのは誤訳だ」といった指摘があがっているのに気づいた。

これを知った私は、「なるほど、言われてみれば確かにそうかな」くらいに思っただけだった。英語学習のブログを続けているのに、ボーッと生きているせいか、われながら感度が鈍い。

しかしその後、「ニューヨーク・タイムズ」紙のウェブ記事を読んでいたら、次のような記述が目に留まった(なおこの記事は、ハーフである大坂選手の活躍が”単一民族”国の日本社会に与える意味あいについて書いたもので、興味深い内容だ)。

- After her victory, Ms. Osaka demonstrated a characteristically Japanese trait when she apologized for her win. “I’m sorry it had to end this way,” Ms. Osaka said, acknowledging the contentious decisions against Ms. Williams by the umpire. As she thanked the fans, she dipped her head in a bow, also a common practice in Japan.
("In U.S. Open Victory, Naomi Osaka Pushes Japan to Redefine Japanese" The New York Times Sept. 9, 2018)

太字にした部分は簡単に言えば「いかにも日本人的な謝罪」というような意味だろうから、大坂選手の "I'm sorry" を「ごめんなさい」と取っていることになるはずだ。

この記事には筆者の名前が書かれていて、ファーストネームは日本人風だ。もしかしたら日本生まれで、であればその影響もあって「ごめんなさい」と考えた可能性も皆無ではないかもしれない。

しかしオピニオンではなく一般記事として出ているので、筆者は外部の識者ではなく自社の記者だろう。ならば編集部のチェックを受けているはずだ。つまり「タイムズ」紙としても「謝罪」とするのに異存はない、ということになりそうだ。

アメリカの新聞がこう書いているとなると、「誤訳だ」という方が誤っていることになるのだろうか。

さらに調べようと、大坂選手の名前と apologize でウェブを検索してみると、やはり謝罪ととらえている英語圏のメディアが複数見つかった。試合直後の記事の例でいえば、

- Naomi Osaka apologized for winning the U.S. Open after defeating home favorite Serena Williams in a contentious final.
("U.S. Open 2018: Naomi Osaka apologizes for defeating favorite Serena Williams" SportingNews Sept. 9, 2018)

いや、それより何よりも、大坂選手本人が apologize を使っていたことがわかった。

試合から2日後、大坂選手はNBCの Today に出演し、表彰式での自分の気持ちと発言について語った。その時にこの言葉を使ったのである。

- US Open champion Naomi Osaka revealed on Monday that she still feels emotional about her win over Serena Williams and felt compelled to apologize for it after Williams fight with their umpire overshadowed her victory.

Appearing on the Today show, Osaka, 20, spoke in a soft voice as she said that she 'knew' the court was rooting for her opponent and not her to win.
(Daily Mail, Sept. 10, 2018)

番組での発言は、当日の気持ちを具体的に言い表しているので、少し長いが引用しよう。

- "I felt a little bit sad because I wasn't really sure if they were booing at me or because it wasn't the outcome they wanted," she says of her thoughts at the moment. "And I also could sympathize because I've been a fan of Serena my whole life and I knew how badly the crowd wanted her to win, so, I don't know, I was just really emotional up there."
(中略)
"I just felt like everyone was sort of unhappy up there and I know it wasn't the ending people wanted it to be, and I know that in my dreams I won, like, a very tough competitive match but I don't know," she says. "I just felt very emotional and I felt like I had to apologize."
("U.S. Open Winner Naomi Osaka Says She 'Felt She Had to Apologize' After Beating Serena Williams" Etonline, Sept. 10, 2018)

この番組を伝える記事は、どれも apologize をタイトルに入れている。大坂選手の発言の中でも、とりわけこの言葉が興味深かった、あるいは意外だったからこそ、マスメディアは見出しに取ったのだろう。

彼女の「謝罪」を、「ニューヨーク・タイムズ」のような異文化の面ではなく、ジェンダー論あるいは feminism の観点からとらえた記事もあった。引用はしないが、興味のある方はご一読いただきたい。
"Naomi Osaka apologizing for winning is the other tragedy of the U.S. Open" The Lily Sept. 12, 2018

話が広がってきてしまったが、大坂選手自身が apologize だったと言っている以上、授賞式での "I'm sorry..." を「ごめんなさい」とするのは誤りとはいえないのではと思うが、どうだろうか。

ここで sorry の語義を英語圏の辞書で確かめてみよう。長大になるので引用はしないが、ていねいで詳しいと感じたのは Collins English Dictionary だった。説明には apologize も使われているが、それを含めて何項目にもわたる意味が掲げられている。なお、apologize は「謝罪」なのか、という命題も立てられそうだが、私の手にあまるので見合わせることにする。
https://www.collinsdictionary.com/dictionary/english/sorry

英語を学び始めた時から知っているからといって "I'm sorry" を軽く見るな、と言われたような気持ちになった。つくづく外国語はむずかしいと思う。

そして、大坂選手の発言を聞いて、これは apology だとどのように判断したのか、そして apologize したことにどうして興味をかき立てられ、newsworthy だと思ったのか。英語圏のマスメディアのネイティブスピーカーたちにインタビューしてみたい気持ちである。


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英語学習者

いつもながらのきちんとした「取材」に基づいた記事で勉強になります。ありがとうございます。私はそれこそ問題になった部分(勝ってごめん)だけしか考えていませんでした。お笑いの中で「美しく生まれてすみません、お金持ちですみません」がギャグとして成立することが示すように、上から目線とか正体を偽った優越感の表現のように聞こえて、彼女があの場面で言う台詞には思えませんでした。大阪選手については日本の記者会見の模様もチャーミングに聞こえる片言の日本語を話す人物像しか強調していない非知的なものにみえました。日本的なのかハイチ的なのかアメリカ的なのか、とか「日本人」などのカテゴリー観を疑わせる存在ではありますね。The Lilyの記事も読みましたが、ご教示いただいたものを参考に考えてみます。
by 英語学習者 (2018-09-18 10:29) 

tempus fugit

「取材」というような大げさなものではないのですが、調べられるものを調べないで、自分の思い込みにとらわれるのはまずいなと常々自分に言い聞かせるようにしているつもりです。

大坂選手のようなバックグラウンドを持った人の存在感が増していくと、「日本人のカテゴリー観」も少しづつ変化していくでしょうね。一方で、もし大坂選手が、われわれが抱いている”いかにもアメリカ人”的なキャラクターだったら日本での反応はどうだっただろう、とも考えてしまいました。



by tempus fugit (2018-09-19 09:27) 

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