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hole in the wall (続き)~パスタのチェーン店とシェイクスピア [英語文化のトリビア]

前回 hole in the wall 「パッとしない場末の店」を取りあげた際、この表現を知るきっかけとなったのは、パスタの某チェーン店の名前と何か関係があるのだろうかと思ったことだと書いた。

しかし、店としてふさわしくないような意味を持つ言葉をわざわざ店名に選ぶとは考えにくい。

そこでこのチェーン店のホームページを見たら、店名の由来についてこんな記述があった。

- 実はこれはシェイクスピアの戯曲「真夏の夜の夢」に出てくる言葉「ホール・イン・ザ・ウォール(壁の穴)」からとったものです。恋人同士が「壁の穴」を通してささやき合うというシーンなのですが、原作では二人が結ばれるまでの障害を壁にたとえています。つまり「壁の穴」は、障害を乗り越えて心を通じ合わせるために存在したのです。

このお話の「壁の穴」のように、お客様との交流を大切にしたい。 そんな願いをこめて「壁の穴」と名付けました。しかしこれでは話が固くなるので、私はよく、厨房の壁に偶然開いた穴を指さし「ここに穴があるから」と答えていたものです。
(パスタ壁の穴・店主の独白)
http://www.kabenoana.com/column/column1.html

そうだったのか!そう感心して Shakespeare と hole in the wall をかけあわせて検索してみた。

しかし、それらしいセリフはヒットしない。そして見た限りでは、シェイクスピアとからめて説明している辞書の記述やサイトも見当たらない。

シェイクスピアは聖書(の英訳)とならんで、今も使われている英語表現をたくさん生み出しただけに、この言葉についてそれらしい記述が見つからないのはちょっと奇妙に思った。

そこでさらに翻訳で調べてみたら、この言葉は「夏の夜の夢」 A Midsummer Night's Dream の第5幕第1場で、クインス Quince という登場人物が述べる「前口上」に出てくることがわかった。次の翻訳では「壁」ではなく「塀」としているが、引用しよう。

- こちらの漆喰と石灰だらけの男は、塀でございます。
憎き塀にて、二人の恋人は引き裂かれ、
塀の穴から、二人はそっとささやきます。
という次第ゆえ、驚くなかれ。
(「新訳 夏の夜の夢」河合祥一郎訳)

この場面が原文ではどうなっているのか、ネットで Act 5 Scene 1 を確かめてみた。

- This man, with lime and rough-cast, doth present
Wall, that vile Wall which did these lovers sunder;
And through Wall's chink, poor souls, they are content
To whisper. At the which let no man wonder.

河合祥一郎氏のすぐれた訳業は、以前、「新訳 ハムレット」や「不思議の国のアリス」について触れたことがあるが、この作品でも、原文の韻をみごとに日本語で表していることがわかる。

それはともかく、シェイクスピアの「壁の穴」は、「ホール・イン・ザ・ウォール」ではなく、wall's chink だったわけである。

道理で hole in the wall で調べてもシェイクスピアとのつながりがわからなかったわけである。どうやら、このパスタ店の”店主”氏が接した情報にはちょっと間違いがあった、ということになりそうだ。

ということで、chink についても辞書を引用しておこう。必ずしも丸い「穴」とは限らないようである。

- 裂け目、割れ目 (crack, cleft);狭いすき間(通路);すき間から漏れる光;(法律などの)抜け穴
a chink in a wall 壁の割れ目
(ランダムハウス英和大辞典)

- 1 a narrow opening in sth, especially on that lets light through
a chink in the curtains
~ of light a small area of light shining through a narrow opening

ついでだが、戯曲のタイトルにある midsummer は「真夏」のほかに「夏至のころ」という意味もあり、この作品では後者として使われている。

”店主の独白”にあった「真夏の夜の夢」も以前はよく使われていたが、いま出ている訳書のタイトルはほぼどれも「夏の夜の夢」で揃っているようである。一方、この作品を題材にしたメンデルスゾーンの組曲(その中でも「結婚行進曲」が特に有名)は、いまでも「真夏の~」という題にしているケースが目立つように思う。


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  • 作者: シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/10/25
  • メディア: 文庫


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