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ネイティブだから英語について何でも知っているわけではない~シャーロック・ホームズ「小惑星の力学」の謎 [シャーロック・ホームズ]

日本人であっても、日本語の文章あるいは日本語そのものを100パーセント理解できるとは限らないのは誰もがうなずけることだと思うが、英語になると、こうした自明の理を忘れてネイティブ信仰に陥るケースがなきにしもあらずだと思う。

前回のエントリに関連して、さらにいろいろ調べていたら、そんなことを考える事例があった。

前回は、シャーロック・ホームズの作品に出てくる架空の論文「小惑星の力学」The Dynamics of an Asteroid がどんな内容だったかを推理するミステリ短編(アイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」)を例に、英語学習について書いた。

「小惑星の力学」とは、ホームズ物語で最大の悪役である天才数学者モリアーティ教授が書いた論文である。タイトルだけで知られ、その内容が何かはホームズファンや研究家の好むテーマのひとつのようだ。私が持っている「ホームズまるわかり事典」もこの話題を取り上げていたが、その中に興味深い記述があった。


ホームズまるわかり事典―『緋色の研究』から『ショスコム荘』まで

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  • 作者: 平賀 三郎
  • 出版社/メーカー: 青弓社
  • 発売日: 2009/08
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「小惑星の力学」の内容については諸説あるが(「まるわかり事典」はアシモフの短編も紹介している)、これまでは asteroid を天体の「小惑星」ととらえることでは共通していた。しかし、日本人のホームズ研究家が、まったく違った視点から新しい説を唱えているという。

それによると、asteroid とは数学では曲線の一種を指す。だから、The Dynamics of an Asteroid は、そもそも「小惑星の力学」ではなく、「アステロイド曲線のダイナミクス」または「アステロイド解を持つ場の力学」としなくてはならないのだそうだ。

これを読んで、驚くとともにすっかり感心してしまった。長いこと親しんできたタイトル「小惑星の力学」が、実は誤訳だったとは! 数学者であるモリアーティ教授が物理学あるいは天文学の論文を書いたのだろうかという素朴な疑問にも応えており、説得力のある見事な説という他ない。

もちろん、「事典」のこの項目の執筆者もこの新説を称えていて、それにはまったく同感なのだが、続いて次のような記述があった。

- わが国での先行研究ならば、誤訳の影響も受けるだろうが、英語を日用語とする英国のシャーロキアンの研究でも、アステロイドを単純に小惑星だとしているのは不思議である。

こう書かれているのが、ちょっと気になった。英語を日用語としているからといって、asteroid に「アステロイド曲線」の意味があると皆が知っているとは限らないのではないだろうか。

私も仕事で何回か体験していることだが、ネイティブだからといって、誰でも英語の内容を正確に理解できるとか非ネイティブの英語を添削できるわけではない。内容、時には言葉そのものについての理解や知識がなければ、不適切な解釈やトンチンカンな修正を行うことがあるのは、日本語の場合と同じだ。

この項の執筆者はそこまで単純化しているとは言えないかもしれないが、ネイティブというだけで、100パーセント言うことが正しいと思い込むとまずい場合があることは、頭の隅にとどめておいてもいいことだと思う。

さて、ネイティブであっても「アステロイド曲線」に気づきにくいのは、あくまで素人考えだが、その綴りにもあるのではないかと思う。この語は通常、e のない astroid と綴るらしいのだ。

e のある asteroid の語義にこの曲線を含めている辞書は、ネットを含めちょっと調べた限りでは見つからなかった。わずかに Wikipedia が、Astroid の項を、

- An astroid (sometimes spelled asteroid) is a particular mathematical curve: a hypocycloid with four cusps.
http://en.wikipedia.org/wiki/Astroid

と始めている程度である(この項目はいろいろな数式が書かれていて私にはチンプンカンプンだが、曲線が実際に動きを伴って描画されるので何となく雰囲気がつかめる。なお cycloid 「サイクロイド」は円が直線上を滑らずに回転する時に円周上の1点が描く曲線のことだそうで、hypocycloid 「内サイクロイド」は円が他の円に内接して回転する時の1点の軌跡、また cusp は「尖端」である)。

一方、日本語では逆に、アス「テ」ロイドであり、アス「ト」ロイド曲線、というような表記は見当たらなかった。

- アステロイド
(英 asteroid「星形」の意)定円にその円の四分の一の半径の円が内接し、すべらずころがるとき、小円の周上の一点が描く曲線。内サイクロイドの一種。星芒形。
(日本国語大辞典)

この「アステロイド曲線」説が正しいとすると、ホームズ物語の原作者ドイルは、どこかでこの曲線について知ったことになる。著作に専念する前は医者だったので、数学の素養があったということだろうか。天体と間違えるような書き方をしたのも謎である。

一方、やはり理系で(生化学博士だった)、しかも幅広い分野について該博な知識を持つことで知られるアシモフが、この曲線に気づかなかったことも不思議である。やはり asteroid という綴りだと、よほどの専門家でない限り「小惑星」と取るということだろうか。謎がつきない The Dynamics of an Asteroid であった。

さて、ここまで書いてネットであらためて調べたら、「アステロイド曲線」説の提唱者が書いた説明文がちゃんとあった(理系の人であった)。日本語だが、英文の Abstract をつけていて、まさに論文スタイルである。
http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~koji/mooo.html

文章全体を英語にして、海外のしかるべきホームズ研究誌に発表したりはしなかったのだろうか。前回も触れた英語の「詳註版ホームズ全集」の注釈に取り入れられてほしかった説である。

参考記事:
・英文混じりの翻訳から英語を学ぶ (アシモフ「黒後家蜘蛛の会」) 
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2013-10-07
・marginal note 「欄外の注」 (「詳註版シャーロック・ホームズ全集」)
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2013-04-26

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