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「母さん助けて詐欺」はどこへ行った? (bank transfer scam) [和英表現]

先日の新聞を眺めていたら、「振り込め詐欺など被害最悪」というの見出しの記事が目にとまった。何か引っかかったので、なぜかとしばし考えて、そうだ、この詐欺には何か新しい呼び名がつけられたはずだ、ということを思い出した。

ネットで確かめると、あった。そうだ、「母さん助けて詐欺」だ。警察が今年5月に公募して改名していた。その時、応募した人には悪いが、あまりイケていない呼び方だな、果たして広まるのだろうか、と感じたものだった。

それ以来、個人的には「母さん~」を見聞きした記憶がほとんどない。私の社会問題への感度が低いのだろうが、それにしては、冒頭にあげた記事も文中で「母さん~」を一度も使っていなかった。なぜなのか、新聞社に問い合わせればいいのだろうが、小心者なのでその勇気がない。

私がこの新名称を聞いた時にまず思ったのは、長い、ということだった。「オレオレ詐欺」や「振り込め詐欺」は短くて響きも耳に残りやすい(いま風の美しくない日本語で言えば「耳ざわりがいい」)。英語では snappy とでも言えばいいのだろうか。

わざわざ長いものに変えるのなら、より印象的な言葉でないとなかなか浸透しないだろう。字数が多い分、マスコミも正直ありがたくないはずだ。ネットで検索すると、先の新聞記事のように、いまも「振り込め~」を使っているマスコミがかなりある。

また、音としても、そして内容的にもインパクトが弱いと感じた。テレビニュースでは「いい名前だと思います」という街の声 vox pop も紹介していたが、マイクを向けられたら否定的なことは言いづらいだろう、また言ったとしても編集でカットされるだろうな、と意地悪く考えたりもした。

こんなことを思い出しながら、今回興味を持ちネットで調べてみたら、実は自分がいくつか思い違いをしていたことに気づいた。

まず、「振り込め詐欺」が「母さん助けて詐欺」になったのは、全国的なものではなく、そもそも警視庁(だけ)の話だった。

「警視庁」は the Metropolitan Police Department と和英辞典や公式サイトにあるように、あくまで首都東京の警察である。日本の警察行政全体を司る「警察庁」 the National Police Agency ではない(これは結構誤解している人がいるのではないか)。ちなみに警察庁の公式サイトで「母さん~」を検索してもヒットはなかった。

その意味では、日本語版「ウィキペディア」の「振り込め詐欺」にある、

- 2004年12月9日に、警察庁によって統一名称として「振り込め詐欺」と呼ぶことが決定された。2013年5月12日に、再び現状に合わなくなったことより「母さん助けて詐欺」など3名称と併用することが決まった。

という記述は、「母さん~」の方の主語を明記しておらず、直前に出てくる「警察庁」だと誤解を与えるのではないだろうか。

さらに「ウィキペディア」の説明を読むと、

- 2013年3月21日、振り込ませるケースが減少し再び実態に合わなくなったことで、警視庁は同年4月10日までの予定で新たな名称案を募集。(中略)5月12日に新名称が発表され、「母さん助けて詐欺」が最優秀、「ニセ電話詐欺」・「親心利用詐欺」が優秀作品として選出され、この3作品は主に広報において振り込め詐欺と併用される。静岡県などでは、実態とそぐわないなどの理由から、新名称「母さん助けて詐欺」を使用しない県警もある。

と、こちらは「警視庁」と正しく書いてある。ただ、そのあとに「静岡県などでは」とあるのは、別に静岡県警などが使おうが使わまいが勝手で、東京の警視庁の決め事なのだから直接関係はない、といってもよさそうだ。

ついでだが、「『振り込め詐欺』の新名称は『母さん助けて詐欺』」というタイトルのページが長野県飯田市のサイトにあるのを見つけた。これだと、全国的にそう変わったか、長野県が(主体的に)変えた、と読めると思うが、文中には「警視庁」とあるだけで「長野県警」は出てこない。その長野県警の公式サイトを検索しても「母さん~」は1件のヒットもない。

もうひとつ、「ウィキペディア」に書かれているように、「母さん~」に切り替えたのではなく、あくまで「併用」であった。「変更」「改名」と思い込んでいたが、これも私の誤解だったわけだ。

当時の新聞記事をみると、

- 統計などには「振り込め詐欺」の名称を使い、3作品は今後、主に防犯イベントやポスターなどで使用して、被害防止を図っていくという。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK12008_S3A510C1000000/

と書かれている。全面変更ではないので、新聞記事の本文に使われていなくても、別におかしくはないことになる。

それにしても、「実態にあわなくなったので新しい名称を追加する」とは、いかにもお役所らしい措置だと思うが、鳴り物入りで公募までするのなら、併用などといわず、「振り込め詐欺」に取って代えるくらいの意気込み・位置づけにすべきだったのではないか。でなければ逆に、実態を示す名称と割りきって内部で考案し、公式文書だけに使う程度の地味な路線にとどめてもよかったのではないかと思う。

実際には詐欺にいくつかの手口があるのだとしても、一般に使うのには総称としてわかりやすい言葉がひとつあれば充分だ。「母さん~」には、どうにも中途半端な印象を抱いてしまう。

ところで、先月行われたイベントを伝えるこんな記事もネットにあった。

- 警視庁が名付けた「振り込め詐欺」の新名称「母さん助けて詐欺」の浸透を図るため、「被害防止アドバイザー」を務めるものまねタレントのコロッケさんが13日、東京都練馬区の練馬文化センターで開かれた同庁音楽隊のコンサートに出演し、被害撲滅を訴えた。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130713/crm13071318010006-n1.htm

ネットではけっこう「母さん~」へのネガティブな声が見られることもあり、「やはり警視庁も気になっているのか」と一瞬思ったが、しかしこのイベントの目的は、(少なくとも公式には)新名称の浸透を図るというより、被害にあわないよう注意を呼びかけるため、と取る方が素直で自然ではないだろうか。

警視庁や練馬区の広報が見つからなかったので断言はできないが、ネットで見た他のマスコミは後者の取り上げ方をしており、この記事は取材者の主観が混じっているように感じてしまった。

余談だが、今回の「母さん~」で思い起こしたのは、ご存じない方が多いかもしれないが、いまの「JR」ができた時の愛称である。かつての国鉄(日本国有鉄道)が二十数年前に民営化された際、それまで使われていた「国電」(国鉄の電車)に変わる言葉として、公募で「E電」が採用された。

この言葉は、いま使われていないどころか、当時を知る人の多くにとっても、「そういえばそんなこともあったな」というくらい記憶の彼方に追いやられているのではないだろうか。「ウィキペディア」の「E電」の項は、「普及の失敗」という見出しを設けて記述しているほどだ。

公募で選んだとしても、必ずしも定着するとは限らないのが、言葉のおもしろいところだろう。

ふと目にした新聞の見出しをきっかけにいろいろなことを書いたが、「母さん助けて詐欺」に対する印象はあくまで私個人のもので、「イケてる言葉だと思う」「よく使われている、よく見聞きする」という方がおられたら、それに異議を唱えるつもりはまったくない。

英語学習のブログなので、最後に「振り込め詐欺」を英語でどう言うかを調べて終わりにしたい。

手持ちの和英辞典では、「おれおれ詐欺」を載せたものが一点あるだけで、「振り込め~」は見つからなかった。この犯罪は日本だけでなく外国でも起きているが、決まったひとつの英語表現があるわけではないようだ。ネットで調べると、数語を組み合わせたもの、手口を説明する形を取っているもの、いろいろある。

例えば下記のような表現が見つかったので、興味がある方は、これらを参考に、さらに調べていただければと思う。

- an "it's me" scam (in which the caller impersonates a relative in financial distress)
(研究社新和英大辞典・・・説明的な部分をカッコに入れているが、その部分なしでも通じるのだろうか?)
- bank transfer scam
- money transfer fraud
- a wire-the-money scam
- remittance-soliciting fraud
- family member impersonation scam
- phone scam during which the caller may pretend to be a relative who is in trouble
- scam artist who pretend to be a family member
- The scam artist may call and pretend to be a relative who is in trouble and needs money immediately

参考記事
vox pop 「街の声」「街頭インタビュー」
relative は「親類」でいいのか?

タグ:日本語
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