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「動物農場」の新訳 [翻訳・誤訳]

サリンジャーの「キャッチャー・イン・ザ・ライ」をネタに「旧訳と新訳」について先日書いたが、新訳といえば、書店をぶらついていていたら、ジョージ・オーウェルの小説「1984年」と「動物農場」の新しい翻訳がそろって出ていることに気づいた。

どちらも読んだことのある作品だが、私にとっては「1984年」よりも「動物農場」 Animal Farm の方が取っつきやすいし、新訳はなかなか良さそうだったので、こちらを購入して読んだ。


動物農場―おとぎばなし (岩波文庫)

動物農場―おとぎばなし (岩波文庫)

  • 作者: ジョージ オーウェル
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/07/16
  • メディア: 文庫

新訳でまず目を引いたのは、「です・ます」体を使っていることである。初めて読んだ時の訳は「だ・である」体だった。

この作品には "A Fairy Story" という副題がついている(新訳もちゃんとこれを表題に含めている)。「おとぎばなし」だから「です・ます」調を使うべきだ、といいたいわけではもちろんないし、子ども向け作品の翻訳が判で押したように「です・ます」調を使っていることに批判的な翻訳者もいることは、以前書いたことがある(→ 「飛ぶ教室」の新訳)。

もちろん、この作品は実際には大人を対象としているのだが、しかしそれでも、この作品は「です・ます」体を使った方が印象が深くなるのではないか。初めて読んだ時に何となくそう感じたのを覚えている。

そして今回、実際にそのように翻訳された新訳を読んでみて、確かにこの寓話の持つ重さが「です・ます」体によってかえって浮き彫りになり、強められているように思った。もちろん異論があるかもしれないが。

もうひとつ、これはネタばれになるが、この作品には、文の最後にわずか数語を付け加える手法によって、権力者が元の意味をがらりと変えてしまう様子が描かれている。

例えば、もともと "No animal shall drink alcohol." だったスローガンが、いつのまにか "No animal shall drink alcohol to excess." に、そして "No animal shall sleep in a bed." が、"No animal shall sleep in a bed with sheets." と書きかえられていた、という具合である。

最後には、"All animals are equal." が、"All animals are equal but some animals are more equal than others." となる。権力者によるプロパガンダ・世論操作の怖さを示している場面といえるだろう。また英語の面でも、原文を読んだ時に、なるほどそうなるのか、と思ったものだった。

この部分は今回の新訳では、「動物は酒を飲むべからず」が、のちに「動物は酒を飲むべからず。過度には」に、また「動物はベッドで寝るべからず」が、「動物はベッドで寝るべからず、シーツを用いては」になる、というようにしている。

ごく当たり前の訳のように見えるが、書店にあった別の翻訳を見たら、「動物は過度に酒を飲むべからず」というように訳していた。これでは、数語を書き足したのではなく、まるで元のスローガンをいったん消してまったく新たに書き直したようになってしまう。英文解釈としては合格でも、翻訳としてはうまくない、といえる例といえるのではないか。

ここはやはり、新訳のように原文と同じような語順にすべきだと思う(ちなみのこの別の翻訳は「だ・である」体を使っている。かなり前に出た訳だが、私が最初に読んだのがこれだったかどうかは記憶にない)。

この「スローガンの書きかえ」については、この新訳の翻訳者も巻末の解説で触れていたが、そこではオーウェルのエッセイ「政治と英語」 Politics and the English Language とも関連づけて論じていた。

このエッセイについては、私も以前取り上げたことがあるが(→ジョージ・オーウェルの英語指南)、あくまで英語学習とからめて書いたにすぎず、「動物農場」とのつながりなど考えもしなかった。自分の読みの浅さを恥じるのみである。

「動物農場」はオーウェル自身が「ソヴィエト神話を暴露する」ために書いたと述べているが、今でも、常に腐敗・堕落に陥る権力の危うさを描いた作品としても読めると思う。

オーウェルがそうした意図も持って書いたのかどうかはわからないが、名作とは、後の時代の読者も新しい意味を見いだせる要素を持っているのではないか。この「動物農場」はそうした好例ではないか、と新訳を読みながら考えた次第である。

最後に「読みが浅い」ということで開き直って英語についての余談だが、前述の文に出てくる more equal といえば、その昔 equal は比較級にはならないと習った時は、「現実にはいろいろな不平等があるのにそんなことってあるのか」と思ったのを覚えている。

しかし今回あらためて「ジーニアス英和辞典」で equal を引いたら、「実際には a more equal distribution of profit といった表現もよく用いられる」という内容の記述があり、やはりそのように使われるようになっているのか、と思った。

Animal Farm: A Fairy Story

Animal Farm: A Fairy Story

  • 作者: George Orwell
  • 出版社/メーカー: Penguin Books Ltd
  • 発売日: 2004/09/01
  • メディア: ペーパーバック


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