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充実の「アンカーコズミカ英和辞典」 [辞書・学習参考書]

アンカーコズミカ英和辞典

アンカーコズミカ英和辞典

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 学習研究社
  • 発売日: 2007/12
  • メディア: 単行本

今年1月に出た新しい辞書である。この週末に購入したが、すばらしい内容だと思った。これまで何回か、辞書で気づいた不適切と思える訳語や説明を私は取りあげてきたが、この辞典を見ると、そのいくつかについて納得のいく記述が書かれていた。さらに、他の辞書にないような斬新な説明や工夫も見られる。

きっかけは、書店で何気なくこの辞書を手にして、先日取り上げた dead heat を試しに引いてみたことだった。繰り返しになるが、dead heat は「デッドヒート」ではないとしばしば参考書や辞書に書かれている。しかし実際には、比喩的に日本語と同じ意味で使われることがあるようだ、ということを書いた。この「アンカーコズミカ」には、

最近では「大接戦、デッドヒート」の意でも用いられる.

とはっきりと書かれていた。

続いて同じ d- ということで、これも以前書いた demonize を引いてみた。「悪霊のようにする」「悪魔化する」といった訳語を載せているものばかりだが不適切ではないか、という文句を書いたのだが、この辞書には、そうした「悪魔」のたぐいの言葉は一切使わず、

~を悪者扱いする、危険視する、~の悪い評判を立てる

と、こなれた訳語を載せていた。

さらにページを繰ると、ブッシュ大統領のあだ名である Dubya とか、対テロ戦争で使われるようになった IED のように、学習英和辞典としては時事的な新語をかなり収めている。まあ、これは新しい辞書として予想ができる特色だが、それだけではなかった。こうした訳語や新語のほか、読んで楽しく、知って役に立つ情報や説明がいろいろと記載されていることがわかった。

最近は多くの辞書がこうした情報を盛り込んでいることは知っているが、私は英語で飯を食っているわけではなく、そのたびに面白いと購入していてはきりがないし、懐具合も寂しくなる。しかも今はネットでいろいろ調べることができる。そんなわけで新しい紙の辞書はこのところ購入したことがないが、この「アンカーコズミカ」は持っていて損はなさそうだし、以前書いたような「トイレで読む辞書」としても使えそうだ。そう考えて、レジに持っていった。

家に帰って少しじっくり目を通すと、書店での印象通り、あちこちに納得のいく語義や説明が書かれていることに気づいた。私が過去に取り上げた例をさらにひきあいするのをお許しいただきたいが、first generation は単純に「一世」と訳してはまずいことがあると書いたことがある。この辞書は

1.(外国から帰化した)一世 2.(移民の一世の子である)二世

という違いをしっかりと記していた。

また以前 incapacitated について、動詞 incapacitate の「能力・健康・資格を奪う」といった訳語から考えると誤解する場合がある、と書いたが、この辞書は見出し語として、

[遠まわしに](忙しくて)手が離せない

という訳語を載せている。

これも以前取りあげた単語で、ネットでもお目にかかる spoiler については、

(小説や映画などの)ネタをばらすこと、ネタバレ

と、私としてはすでに定着しつつあると考える言葉を採用していた。この訳語を載せている辞書が見当たらなかったことに不満を感じると以前書いたことがある。

またこの「アンカーコズミカ」は、語法や類語についての記述が豊富だ。それは他の辞書にも見られる特徴だが、さらに目を引くのは、文化的背景にからめた解説や日本文化との比較が充実していることである。これについては、「まえがき」で「言葉と文化の不可分性を追究した」という内容のことが書かれており、編集方針として意図したものであることがわかった。

かつて英語を使う部署にいた時には非ネイティブスピーカーを相手にすることがほとんどで、英米文化にとらわれない、いわゆる「国際語としての英語」の有用性を肌で感じていた。その一方で、例えばネイティブが書いたものを読む時には、英米文化についてよりよく知っていればいっそう深く味わうことができる、という経験もしている。

確かに「英語は国際語」だろうが、実用性は別として、そうした知識を深めることを否定するつもりはない。知の地平線を広げることはそれ自体楽しいものである。

ということで、この面で目にとまった記述を少し紹介してみたい。event の項を見ると、配偶者を行事に同伴するかどうかをめぐる文化的違いについて説明がある。sin には、訳語からは受け取りにくいこの単語の持つ重みについて記述されている。また、sincerity では「誠実」との違いについて記述し、

日本人の「誠実」が英米人には不誠実・偽善などと思われることがあるし、逆に英米人の sincerity が日本人にはごう慢・あからさま・無愛想などと思われることがある.

と結んでいる。英語と日本語を1対1対応のように結びつけてとらえることの危うさに気づくことになる。

さらに例をあげよう。wind という何の変哲もない単語には、次のような用例と説明があった。

a west wind 西風(イギリスでは西から吹く風で、歓迎される) an east wind 東風(イギリスでは大陸から吹き渡る冷たい風で、嫌われる)

これを目にしてすぐに連想したのは、私の好きなコナン・ドイルのシャーロック・ホームズもののひとつで、第1次大戦前夜を描いた「最後のあいさつ」 His Last Bow である。この作品では最後でホームズが相棒に「東風が吹いてきたね、ワトソン」 "There's an east wind coming, Watson." と語りかけるのだが、wind が持つこうした文化的背景とつながりがあるのは間違いないだろう。

ちなみにこの単語には、「The wind is blowing hard. は文語的で、It is blowing hard も日常的ではなく、普通 It's windy. という」といった内容の記述もあった。

続いて rain からの連想で rainbow を見たら、

キリスト教では神の許しの象徴.外側から red, orange, yellow (中略)と7色とみなされることが多いが、indigo を blue に含めて6色とみなされることもある. 最近では、さまざまな人種の協調の意味で rainbow を用いることがある.

として、rainbow coalition という例をあげていた。

自己表現に役立つ工夫もある。「和英のツボ」という囲みがあり、例えば appeal には日本語の「アピールする」、challenge には「チャレンジする」として、果たしてこうした英単語がそのまま使えるのかについて説明されている。

本編以外では、巻末に「appleは『りんご』か―英語と日本語のモノのとらえ方」という解説がついている。冠詞や数の概念などについてかなりのページを割いて説明していて、読みごたえがあった。

また細かいことだが、「言葉と文化の不可分性を追究する」一方で、表紙見返しに世界地図を載せているのは好ましいことだと感じた。英和辞典といえば、掲げているのは北米や英国など英語圏の地図ばかりというのがこれまでの相場だったのではないか。

以上、ずいぶんと長文になり、また引用が多くなってしまったが、それだけこの辞書に感心したということでご容赦願いたい。なお、私はこの辞書の関係者や出版社とは一切関わりがないことを書き添えておく。

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コメント 8

たんご屋

この辞書の編者は山岸教授なのですね。山岸さんは「山岸教授の日英語サロン」(http://blog.livedoor.jp/yamakatsuei/)というブログで英語のみならず日本語についてもおもしろい記事をたくさん書いていらっしゃいます。あの先生の辞書なら信頼できそうですね。
by たんご屋 (2008-09-01 08:43) 

mamarimama

山岸勝栄先生の 『スーパー・アンカー英和辞典』 を私も愛用していましたので、子守男さんが この辞書を推薦される お気持ちが わかるような気がします。早速 Amazon のカートに入れて保存しておきました。きっと近いうちに購入してしまうことになりそうです(笑)。
by mamarimama (2008-09-01 11:47) 

子守男

たんご屋 さん、コメントありがとうございました。この編者の方は有名な先生なのですね。知りませんでした。教えていただいたサイト、参考にさせていただきます。
by 子守男 (2008-09-02 01:23) 

子守男

mamarimama さん、コメントありがとうございました。私は「アンカー」を使ったことがないので内容に感心したのですが、なじみのある方には、旧辞書から受け継がれている特徴なのかもしれませんね。ともあれ、読んで面白く、参考になる辞書だと思いました。
by 子守男 (2008-09-02 01:26) 

50歳からの英語学習

はじめまして、私もこのたび「アンカーコズミカ英和辞典」を購入しました。じつは娘が高校生の時に「スーパー・アンカー英和辞典」を学校で薦められて持っており、大変見やすくて内容も素晴らしく、いい辞典だなぁ~と感心していた記憶があります。それで今回その上位版ということで、こちらの辞典を選んだしだいです。単語の説明などの内容はほぼ同じですが語彙数かなり増えていますし、二色塗りの赤字が少し落ち着いた色彩になっていますね。あと、コラムなどもさらに充実してるようです。そうそう、こちらのブログ「英語の海を泳ぐ」もたいへん参考になりましたよ。
by 50歳からの英語学習 (2008-11-20 22:06) 

子守男

50歳からの英語学習 さん、どうもありがとうございました。「アンカー」はいわば固定ファンがいる辞書のシリーズのようですね。こういった特色ある辞書がどんどん出てくるのは歓迎すべきことですよね。
by 子守男 (2008-11-23 18:13) 

friendlyundertaker

ときおり貴ブログを拝読しております。

今更ながらなのですが、この記事で紹介されたこの英和辞典が、ずいぶんと長らく気になっていました。そして昨年12月、職場近くの書店で実際に手にしてみて購入しました。

まず気に入ったことは、これは内容とは関係ないのですが、「触り心地」です。それから「サイズ」。そして貴殿もおっしゃっていますが、「2本のしおり」。さらには各ページの「レイアウト、文字の大きさや色」など。私はこうした「物理的な」諸点も結構大切だと思っています。

半年間実際に使ってみて、なかなかためになりました。たしかに「読める」英和辞典でした。まれに載っていない単語があったりしましたが、それは決してこの辞典の評価を落とすものでも何でもなく、他の辞典を併用すれば良いだけのことです。外国語としての英語を学習する際に、大変に役に立ちそしてためになり、まことに嬉しい辞典でした。学習することを楽しくしてくれる英和辞典だと感じました。

かつて「英語で考える」などと言われていた時代に育ち、ペーパーバックの英英辞典やロジェのシソーラスなどばかりにあたり、只管英語かぶれのようになっていた時期がありました。しかし平均的な日本人の英語学習者としては、やはり良質な英和辞典の存在は欠かせないと感じています。母語である日本語を大切にしながら、これを英語の学習にも十分に活用したいと考えるものです。

貴殿のこの記事がなければ、あるいは私はこの英和辞典にはめぐり会っていなかったかもしれません。大変に遅ればせながら、ありがとうございました。

by friendlyundertaker (2016-07-06 23:21) 

tempus fugit

紙の辞書は物理的なポイントも大切、というのはおっしゃるとおりですよね。十代の時に愛用した、緑の箱に入った「研究社英和中辞典」、その後に使った「旺文社英和中辞典」「小学館プログレッシブ英和中辞典」は、どれも見やすかったという記憶があります。そうそう、各辞書の「匂い(香り)」にも印象づけられたことを思い出します。

by tempus fugit (2016-07-07 01:12) 

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