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Call me Ishmael. 「まかりいでたのはイシュメールと申す風来坊だ」(メルヴィル「白鯨」) [英語文化のトリビア]

このところ「名作の書き出し」について書いているが、日本文学で誰もが知っているのが「吾輩は猫である。名前はまだ無い」だろう。名前つながりで連想するのが、"Call me Ismael." だ。Herman Melville の Moby-Dick に出てくる言葉である。


白鯨 (上) (新潮文庫 (メ-2-1))

白鯨 (上) (新潮文庫 (メ-2-1))

  • 作者: ハーマン メルヴィル
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1952/02/04
  • メディア: 文庫


「白鯨」が定訳となっている Moby-Dick は、その昔翻訳を手にとったが途中であえなく挫折した。何しろ長大な作品だ。

冒頭からしばらくはクジラについての文献の引用が続き、"Call me Ishmael." は厳密には本編の最初の文だが、何せ印象的である。そのためか、前回紹介したサイトを含め、「書き出し」として広く扱われている。

私がこれを知ったのは、まじめな学習や読書とは関係なく、コミックの「スヌーピー」によってだった。

「スヌーピー」(作品名は正しくは Peanuts)は、お決まりの題材がいくつかあるが、そのひとつはスヌーピーがタイプライターで小説を書くというものだ。中学生か高校生の頃だったろうか、そのパターンが使われた話を読んだが、最後のコマでスヌーピーが書いたのが "Call me Ishmael." だった。

その時はいったい何のことかまったくわからなかったが、ずっとあとになって「白鯨」に出てくる文だと知るとともに、かつて「スヌーピー」で見たはずだと思い起こした。文豪気取りのスヌーピーを描いたのだろう。「スヌーピー」に使われるくらいだから、英語圏では誰でも知っている有名な言葉らしいと気づいた。

ネットで探してみると、私が見た "Call me Ishmael." のコミックの画像は見つからなかったが、このストーリーについて書いている海外のブログ等が複数あった。

さらに、この言葉には字面だけでは日本人にはなかなかわからない背景がある。その説明や翻訳の違いについて書いたサイトもいくつか見つかる。

「白鯨」はこれまで何度も訳されているが、この書き出しについてネットや書店で調べた範囲で見つけた翻訳は、次の通りだ。

- まかりいでたのはイシュメールと申す風来坊だ。
- わたしのことはイシミアルと呼んでもらいたい。
- 私の名はイシュメイルとしておこう。
- イシュメール、これをおれの名としておこう。
- わたしを「イシュメール」と呼んでもらおう。
- おれをイシュメールと呼んでくれ。

このうち、目を引くのはやはり一番目にあげた訳だろう。

ネットを見ると、「まかりいでたのは」「風来坊」は原文にないと批判する記事がある一方で、Ishmael のいう人名に込められた意味・背景を表そうとしたと評価するものもある。

そこでこの Ishmael だが、聖書に出てくる人物の名前で、比喩的な意味もある。

- 1(聖)イシマエル、イシュマエル(Abrahamが妻の侍女Hagarに生ませた子;妻Sarahの主張で母と共に追放された
2 追放人、世の憎まれ者、宿無し、社会の敵
(リーダーズ英和辞典)

- イシュメイル(MelvilleのMoby-Dickの語り手で同時に登場人物の一人;Pequod号の乗組員としてAhab船長のMoby-Dickへの復讐に加わるが、Moby-Dickの攻撃を受けてただ一人生き残る;Ishmaelとは「追放者」の意で、みずからを自嘲的に呼んだ名.
(リーダーズ・プラス)

つまり "Call me Ishmael." という言葉からは、登場したのは社会のはみだし者だということがうかがえるらしい。

そして、それを伝えようと翻訳者が知恵を絞った結果が「まかりいでたのは~風来坊だ」だったわけである。原語の簡潔さは犠牲になっているが、印象的でうまい訳だと私は思う。

他の翻訳者は、ここまで冒険した人はいない。そのかわり、「~と呼んでもらいたい」とか「~としておこう」という表現、あるいはカッコをつけて「イシュメール」とする表記によって、語り手が「わけあり」の人物で、Ishmael も本名ではないらしいことを示している。この点では、「まかりいでたのは~と申す風来坊だ」は確かにストレートすぎるといえるかもしれない。

また、「わたし」か「私」か、「おれ」にするのかによって、語り手の性格や印象が変わってくるのは、この作品に限らず翻訳ものについてまわる宿命だ。

ということで、たった3語ながら、奥が深いと唸ってしまう "Call me Ishmael." なのであった。

さらに、狂気にとりつかれたように白鯨を追うエイハブ Ahab 船長、またピークォド号 Pequod といった固有名詞にも、それぞれ歴史的文化的な背景がある。興味を持たれた方は調べていただければ幸いである。

ついでにトリビアだが、コーヒーの「スターバックス」は、この「白鯨」に出てくる航海士スターバックから取られていて、以下のように公式サイトにも言及がある。また Wikipedia には、もともとはピークォド号にちなんだ社名にするはずだったという情報も載っていた。もしそうなっていたら、日本で「スタバ」と呼ばれることもなかっただろう。

- Starbucks is named after the first mate in Herman Melville’s Moby Dick. Our logo is also inspired by the sea - featuring a twin‐tailed siren from Greek mythology.
http://globalassets.starbucks.com/assets/9a6616b98dc64271ac8c910fbee47884.pdf

- Originally the company was to be called Pequod, after a whaling ship from Moby-Dick, but this name was rejected by some of the co-founders. The company was instead named after the chief mate on the Pequod, Starbuck.
http://en.wikipedia.org/wiki/Starbucks

もうひとつ余談だが、私がこの作品の文化的背景を知ったのは、SFテレビドラマ「スター・トレック」 Star Trek に、「白鯨」を下敷きにしたと見られる "Obsession" というエピソードがあり、それについての説明を見つけて読んだことだった。雑学は何がきっかけで増えるかわからないものだ。

主人公のカーク船長 Captain Kirk が、かつて遭遇した殺人宇宙生物と再び出会い、部下を危険にさらしながらこの怪物を執拗に追跡するというストーリーだ。関連のサイトから引用する。

- Like "The Doomsday Machine", the script for this episode borrowed a page from Herman Melville's classic "Moby-Dick."
Director Ralph Senensky noted, "I realized from day one that it was a transferring of the Captain Ahab-Moby Dick battle from the ocean to outer space. But the script was more than the novel's struggle between a man and a big whale; it was a mystery story, if not a "whodunit", a "whatisit".
http://en.memory-alpha.org/wiki/Obsession_(episode)

ついでだが、スター・トレックの映画版第2作「カーンの逆襲」 The Wrath of Khan には、前回紹介したディケンズの「二都物語」 A Tale of Two Cities の冒頭がカーク船長のセリフの中に出てくる。

この映画は、現在封切り中の「スター・トレック イントゥ・ダークネス」Star Trek Into Darkness の下敷きにもなっているそうだが、この最新作はまだ観ていない。

と、いろいろトリビアを書いてきたが、肝心の「白鯨」は読んでいないのでエラそうなことはいえない。かつて挫折したが、いつか再挑戦してみようか。

参考記事:
「印象的な書き出し」紹介サイトで英語を学ぶ (famous opening lines)
sniff at, snoopy, snook
ライナスの毛布 (security blanket)
ライナスの親指しゃぶり、および爪を噛む (thumb-sucking, nail-biting)
「サイレン」ではない siren call
「ハムレット」の名セリフの訳


白鯨 上 (岩波文庫)

白鯨 上 (岩波文庫)

  • 作者: ハーマン・メルヴィル
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2004/08/19
  • メディア: 文庫


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