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トヨタの社長の英語 [英語学習]

新聞を整理しながら「プリウス」のリコール問題について読み返していて、トヨタの社長が今月初めの記者会見で英語を使ったことに興味を覚えたので、ネットでちょっと調べてみた。その結果、英語による対応について、十分な用意や検討がされていなかったのではないかと思ったので、以下、少し書いてみたい。

トヨタとは何の関係もない私だが、今回の問題では、生死に関わる装置であるブレーキについて少なからぬ苦情が寄せられているのに、会社側が当初、「感覚の問題」という表現を使っていたのは、どうにも無神経だと感じていた。

仮にその可能性が高かったとしても、いかにも誤解を招きかねない言い方で、もっと別の言い方を工夫すべきではと思った。物事は、しばしば真実そのものよりもイメージで捉えられるのが社会の現実だ。特に今回は、技術や品質管理でのトヨタの評判を損ないかねない問題である。リスク管理のうえからも、迅速であると同時に入念な対応策を練る必要があったはずだ。

そして、同じような甘さが、今月5日に豊田社長が行った記者会見についてもあてはまるのではないか、と思ったのである。

前置きが長くなったが、この記者会見で社長がどんな英語を使ったのか、ネットで探したら動画が見つかったので視聴してみた。
http://www.youtube.com/watch?v=15btBOqR4Lg

会見の途中、社長はアメリカのABCテレビから「質問をするので英語で答えてくれ」と請われ、"I'll try." と答えたものの、続けて具体的な質問をされると、「複雑な問題なので日本語で答える」と英語で前置きして、日本語で答えている。

余談だが、このABCの質問を現場の通訳が誤訳していることを、会見のほぼ全体を字に起こして報じている日経BPのサイトの記事が指摘している。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20100210/180093/?P=2

このサイトは会員登録が必要なこともあり引用は避けるが、指摘の通り、確かに通訳は withhold...from という表現を間違って訳しているといわざるを得ない。さらに余談だが、動画の音声を聞くと、この日経BPの記事の英語の transcript にも、ちょっと怪しいのではと思われるところがある。

それはともかく、会見に戻ると、豊田社長はイギリスBBCからも「何かメッセージを英語で」と再度求められ、今度は英語を使ってまとまった答えをしている。

興味がある方は動画を見ていただきたいのだが、豊田社長の英語での答えをどうみるか。よく答えている、これだけ英語ができれば十分だ、という人もいるかもしれない。かといって、風格のあるすばらしい英語だ、と考える人もあまりいないのではないかと思う。

かなりひどい間違いがあるし、こうした席にはあまりふさわしくないと思われる言葉づかいもある。世界的な企業の(しかもMBAを持っているという)社長にしてこの程度か、と感じる人もいるだろう。さらに短い追加質問もあったのだが、音響的に聞き取れなかったのか、それとも英語が理解できなかったのか、ちゃんとした答えになっていない。

それでも、「英語は多少拙いが、社長自身が説明したことには意味がある」、「国際的企業の社長もこの英語で仕事をしてきたのだ。完璧さをめざすあまり口が重くなっている日本人学習者には励みになる」、「必要なのは英語よりも内容だ」と、前向きにとらえる人が多いかもしれない。

しかし、私は厳しい見方をしたくなってしまう。確かにインフォーマルな談話の場で、参加者の日本人がこうした英語を話したとしたら、一所懸命がんばっているな、という感想を持つ人も(英語ネイティブを含めて)いるかもしれない。そして、それが話者の励みとなり、英語と熱心に取り組むきっかけになるかもしれない。

だが今回は、クルマの安全性の問題について、責任ある立場の(しかも世界的な)企業のトップが記者会見で話すという、真剣勝負の場である。こうした場合、多少英語が拙くても「ネイティブではないから大目に見よう」「ネイティブではないのにがんばっているな」と思われるとしたら、まさに「英語よりも内容」がある場合だろう。

では、「内容」についてはどうだったか、というと、あくまで私個人の考えだが、豊田社長が英語で話した部分は、言葉自体の多少の難を補ってあまりあるほどの中身、自分たちの立場の説得力のある説明といったものが(仮に頭の中にはあったとしても)伝わったとは言い難いのではないだろうか。

外国語を即興で話す際は、残念なことだが、思考が言葉のレベルに引きずられ、本来の思いに届かないという場合がしばしばあるだろう。であれば、特に今回のような状況では、少しでも自分の本来の思考レベルに沿うような形で外国語で表現できるよう、事前の準備が必要だろう。

しかし、会見のやりとりを聞いていると、とてもそうした用意をしていたとは思えない。その結果、英語も中身も、どうも締まらない印象を与える結果となってしまったのではないか、と思う。

韓国の中央日報のサイトには、米メディアを引用して、こんな風に書かれていた。

トヨタ社長も批判の中心に立たされている。米ABC放送記者は記者会見場でトヨタ社長に「英語で答えてほしい」と要求した。トヨタ社長は「努力してみる」と言って英語で答えた。ニューヨークタイムズは6日、「(トヨタ社長は)不完全な英語(broken English)でトヨタが安全だということを信じてほしいと述べた」と皮肉った。

謝罪する際の上体の角度まで非難された。ブログを通して現場を生中継したウォールストリートジャーナルの東京特派員は「トヨタ社長が謝罪で頭を下げたが、こうした記者会見にふさわしい深くて長い礼ではなかった」と伝えた。
( http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=126057&servcode=A00§code=A00 )

悪意すら感じられる海外メディアの報道姿勢などまともに相手にする必要はない、と言うのはたやすい。しかし、こんな風に書かれてしまうこと自体、これまた真実はどうあれイメージで損、という例だと思う。社交ではなく、ことは企業のリスク管理にかかわる問題なのだ。

英語での最初の質問に社長が「日本語で答えたい」と言ったのは、即興でしっかりした受け答えを英語ですることに自信がなかったとも受け取れる。そして、トヨタの国際的な知名度・影響力を考えれば、英語でも質問があるだろうと予測して、考えられる質問を想定して英語での答えを作り、頭にたたき込んでおく、といったような準備もしていなかったと思われる。

であるならば、いくら「英語で」と迫られても、それを突っぱねて最後まで通訳を通して発言する方が、中途半端な英語で話すよりましだったかもしれない(もっとも今回は、現場の通訳にも心許ないところがあるようだが)。

ちなみに、豊田社長は9日にも再度記者会見を開いたが、この時の動画を見ると、英文を用意してそれを読み上げている。5日の経験に懲りたのであろうか。
http://www.news24.jp/articles/2010/02/09/06153229.html

英語学習について、「英語より中身」、そして「英語はコミュニケーションの道具」という言葉を聞くことがある。だが私が気になるのは、こうした言葉が、時として「英語は拙くてもいい、意味が通じればいい、内容があればいい」ということにすりかえられてはいまいか、ということである。

「コミュニケーション」とは、和気あいあいの社交の場で行われるものだけを指すのではない。自分が不利な状況に立たされた場合、それを打破するために行うのも「コミュニケーション」だろうし、そのためには、高性能の道具が必要なはずだ。

自分が置かれた立場や状況で、効果的なコミュニケーションを実現するために、果たして自分の道具が十分たり得るか、冷静に見つめることも必要だろう。そして「拙くてもいい」ではすまされない立場や状況にあるのだったら、やはり少しでも力を高める不断の努力をするなり、事前の準備を入念にするなり、あるいはもっと優れた道具の持ち主の助けを借りるなり、現実的な策を考えなくてはならないと思う。

タグ:国際問題
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コメント 2

mamarimama

こんにちは。
改めて動画を見て、私も同じように感じました。
英語がある程度出来る という自信のある方が陥ってしまいがちな罠と言っても良いかもしれません。記者からの(英語の)最初の質問が既に聞き取れていないように見えましたね…。英語運用能力は、使っていないと どんどん衰えるものだ と思うので、普段から訓練して備えているのでなければ あのような場で使うべきではなかった と感じました。豊田社長も かつては もっと自在に英語を操っていたのかもしれませんが。残念な結果になりましたね。
by mamarimama (2010-02-21 15:06) 

子守男

豊田社長はアメリカ議会の公聴会に証人として出席することになりましたが、今度はどうするのでしょうか、興味があります。
by 子守男 (2010-02-22 01:19) 

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